はいどうも、もじゃさんです。
先日、Instagramの「PUKUBOOK」で、かなり気になる投稿を見かけました。
その内容は、簡単にいうと、
ハオルチアは「収縮根」という特殊な根を使って、自分で地中へ潜っている
というものです。
自生地のハオルチアが、葉先だけを地表に出すように埋まっている姿は知っていました。
ただ、周囲から土が流れ込んだり、長い年月をかけて土砂が積もったりして、結果的に埋まったのだと思っていたんです。
ところが投稿によると、ハオルチア自身が根を使って土の中へ移動しているとのこと。
ほんまかいな?
本当にそんなことがあるんかと。
投稿本文でも「植物自身に潜らせれば、園芸でも自生地のような姿を再現できるのではないか」と考察されていまして、投稿はとても興味深かったものの、確認できる範囲では論文や参考文献などの出典が掲載されていませんでした。
そこで今回は、ハオルチアの収縮根、半地下生活、葉窓、乾燥時の根の変化などに関する論文を調べて、次の疑問を調べてみました。
- ハオルチアは本当に根で土へ潜るのか
- 収縮根はどのように株を引っ張るのか
- そもそも収縮根にはどのような意義があるのか
- 乾燥すると根がしぼんで潜るのか
- 細い「給水根」は乾季に枯れるのか
- 地中に埋まることにはどんなメリットがあるのか
- ハオルチア・クーペリーにも同じ仕組みがあるのか
- 園芸でも「自ら潜る姿」を再現できるのか
- 1. 先に結論:ハオルチアが収縮根で潜るのは「おおむね本当」
- 2. そもそも「収縮根」とは何なのか
- 3. 太い根なら、すべて収縮根なのか
- 4. 収縮根は、先に土を押し広げている?
- 5. 「乾燥すると収縮根が縮む」は少し違う
- 6. 乾燥すると、根と土の間に隙間ができるのは本当
- 7. 細い「給水根」は乾季に枯れるのか
- 8. 収縮根は乾季だけに働くわけではなかった
- 9. ハオルチアが地中に埋まるメリット
- 10. 地中に埋まっているのに、どうやって光合成するのか
- 11. 写真のハオルチア・クーペリーも収縮根で潜るのか
- 12. お家でも「自分から潜る姿」を再現できる?
- 13. まとめ:ハオルチアは本当に「自分で潜る」。ただし仕組みは想像より複雑だった
- 14. 今回確認した主な論文
先に結論:ハオルチアが収縮根で潜るのは「おおむね本当」
ハオルチア属の一部には、根の基部を短くして株を下方向へ引く収縮根(contractile root)が確認されています。
↓こんな感じ

真ん中の根がシワシワシワシワっってなってちょっと太くなっています。
ということで、
ハオルチアが根の力で地中へ潜る
という説明を研究論文による裏付けをしていってみましょう。
2008年に発表された収縮根の研究では、調査対象となった次のハオルチア4種すべてが、収縮根を持つと判定されました。[1]
- Haworthia cymbiformis
- Haworthia fasciata
- Haworthia retusa
- Haworthia venosa
学名と分類は論文内で使用されているものです。
ただし、この研究でハオルチアについて確認されたのは、主に根の外見や内部構造です。
ハオルチアの株が実際に年間何mm沈んだのかまでは測定されていません。株元に目印を付け、継続的に沈下量を測定した対象は、主としてアガベやユッカなど別の植物でした。
したがって、現時点で最も正確な結論は次のようになります。
ハオルチア属内の少なくとも一部には、株を地中へ引く構造を持った収縮根がある。ただし、すべてのハオルチアが同じように潜ることや、種ごとの沈下量までは分かっていない。
って感じです。
そもそも「収縮根」とは何なのか

収縮根とは、根の一部が長さ方向に短くなることで、株や球根などを土中へ引き下げる特殊な根です。
英語では「contractile root」と呼ばれます。
「収縮」という言葉からは、水分を失った根が乾いてしぼむ様子を想像しやすいのですが、実際の収縮根はそれとは異なります。
単に脱水して細くなるのではなく、株元に近い部分が、発生的・解剖学的に「縮むための構造」へ特殊化しています。
Northらは、収縮根を、株元に近い部分に長軸方向へ短くなるよう特殊化した収縮域を持ち、地上部を土中のより深い位置へ引く根として扱っています。[1]
収縮根の細胞は「横に膨らみ、縦に短くなる」
多くの単子葉植物の収縮根では、根の内側または中間部分にある皮層細胞が形を変えます。
皮層細胞は、ざっくりいうと配水管を包む伸縮性のあるクッション層みたいなものです。
収縮時には、おおむね次の変化が起こります。
- 株元に近い根の皮層細胞が横方向へ膨らむ
- 同じ細胞が根の長さ方向には短くなる
- 根の基部全体が太くなりながら短くなる
- 外側の皮層細胞が押しつぶされる
- 維管束が波打ったり圧縮されたりする
- 根の先端側が土中に固定されていれば、株元が下へ引かれる
つまり、収縮根は細くなって縮むのではありません。
むしろ根の基部は横方向へ太くなりながら、縦方向には短くなります。

Northらの研究では、収縮域にある内側の皮層細胞は、同じ根の非収縮部分に比べて約25~30%短く、横幅は約2倍になっていました。[1]
根の外側には横じわが現れますが、これは根が水分を失ってしなびた跡ではなく、内部の短縮に合わせて外側の組織が圧縮された結果です。
別の多肉植物であるAriocarpus fissuratusでも、根の基部が横方向へ太くなるのと同時に、長さ方向への圧縮が確認されています。木部の細胞は、収縮していない部分より約17%短くなっていました。論文では、この動きが、直径が増えると長さが短くなる「チャイニーズ・フィンガートラップ」のような構造にたとえられています。[6]
収縮根は何のためにあるのか

収縮根の役割を一言で表すなら、
植物体を、その植物が生きやすい深さへ配置すること
です。
ただし、色んな論文を横断するように調べると、その意義は単なる「潜るための根」だけではありません。
収縮根は、植物体の深さを調節しながら、株の固定、温度環境の調整、吸水などを助ける複合的な器官と考えられています。
植物体の深さを調節する
植物は成長すると、新しい葉や茎が上方向へ伸びます。
そのままでは、地表すれすれに生きる小型植物や、地下に球根を持つ植物の位置が、少しずつ上へずれてしまいます。
そこで収縮根が株元を引き下げ、地上部の成長による「持ち上がり」を打ち消します。
Ariocarpus fissuratusでは、収縮根によって株が年間6~30mm土中へ移動しました。研究者は、この沈下が地上部の成長を相殺し、株の上面を地表とほぼ同じ高さに保っていると考えています。[6]
収縮根は、植物を一度だけ深く埋める装置というよりも、成長によって変化する株の位置を補正する仕組みと捉える方が近そうです。
ただし、ハオルチアについて年間の沈下量を継続測定したデータは、今回確認した論文にはありません。
砂や土の中で株を固定する
収縮根の広い意味での共通機能として、論文中で挙げられているのが株の固定です。
特に、
- 小さな実生
- 背の低い植物
- 砂質土壌に生える植物
- 土が動きやすい環境の植物
では、株元を土中へ引き込むことが、抜け上がりや転倒を防ぐ働きになると考えられます。
乾燥地では、強風、雨による表土の移動、動物の活動などによって、根の周囲の土が動くことがあります。収縮根が株を下へ引くことで、植物は根を張った位置へ固定されやすくなります。
Northらは、乾燥して移動しやすい砂質土壌で、実生を固定または再固定することを、収縮根の利点の一つとして挙げています。樹木状になるユッカでは、根の広い範囲が収縮性を持ち、大型の地上部を支える必要性と関係する可能性も指摘されています。[1]
極端な温度を避ける
植物体や成長点を少し深い位置へ置けば、地上よりも温度変化が小さい環境を利用できる可能性があります。
地表面は、日中には直射日光で非常に高温になり、夜間には急激に冷えます。特に地面に近い小型多肉植物は、地表面温度の影響を強く受けます。
Ariocarpus fissuratusの実験では、収縮根によって株の上面を岩のある地表と同じ高さに保つことで、最高温度が抑えられ、極端な高温時の生存率が改善しました。
収縮根によって株は年間6~30mm沈み、岩に覆われた土壌で地表と同じ高さにあった株は、高温条件を生き延びました。[6]
ただし、この効果は「深く埋まれば必ず涼しくなる」という単純なものではありません。
この実験では、地表の岩が日射を遮り、土壌表面の温度上昇を抑えていました。収縮根による位置調節と、岩が作る日陰の両方が組み合わさっていた点が重要です。
また、ハオルチアの収縮根について、沈下前後の株温や生存率を直接比較した研究ではありません。
株元付近で水を吸いやすくする
収縮根は、株を引くだけでなく、吸水する根としても特殊な構造を持つ場合があります。
Northらの研究では、収縮根の株元側にある収縮域は、根の中間部分よりも放射方向へ水を通しやすいことが確認されました。
一方、収縮しない根では、株元側は根の中間部分より水を通しにくくなっていました。[1]
収縮域には、次のような特徴があります。
- 内皮のスベリン化やリグニン化が比較的少ない
- 水が通りやすい細胞が残る
- 生きた皮層細胞の連続性が保たれる
- 根毛が残る場合がある
- 横方向への膨張によって土との接触を維持しやすい
根の表面や内皮が強くスベリン化・リグニン化すると、水の移動が制限されます。収縮域ではそれらが比較的少ないため、株元付近から水を取り込みやすいと考えられます。
乾燥地では、弱い雨が降っても、水が土壌の深部まで届かず、表面近くしか湿らないことがあります。
そのような環境では、株元に近い収縮域が水を吸いやすいことは、少量で不定期な雨を素早く利用するうえで有利です。
収縮根の株元側で放射方向の吸水が優先されることにより、雨で湿りやすい土壌表層から水を取り込みやすくなる可能性を示しています。[1]
さらに、株元側の木部で長距離方向の水の流れが制限されることは、植物体から極端に乾いた土へ水が逆流するのを抑える仕組みとして働く可能性もあります。
より湿った位置から新しい根を出す
アガベやユッカの仲間では、株元から新しい不定根が形成されます。
収縮根によって株元が少し深い位置へ移動すれば、新しく出る根も、地表より水分が残りやすく、温度変化の小さい土中から伸び始められます。
Northらは、収縮根が乾燥地で有利になる理由として、次の可能性を挙げています。[1]
- より湿った土中から新根を形成できる
- 水や養分を得やすくなる
- 深部の穏やかな温度環境で根が成長できる
- 砂質土壌で株を固定できる
- 収縮域そのものが吸水しやすい
ただし、「株が深くなったことで実際にどれだけ吸水量が増えたか」をハオルチアで測定した研究ではなく、根の構造と環境条件からの考察です。
土を押し広げ、移動時の抵抗を減らす
収縮根の細胞は、長さ方向に短くなるだけでなく、横方向へ膨らみます。
この横方向への膨張は、周囲の土を押しのけ、株が下へ移動するための小さな空間を作る可能性があります。
Pützらは、植物体を模した模型を砂の中で動かし、あらかじめ土中にチャンネルがある場合とない場合で、移動に必要な力を比較しました。
その結果、小さなチャンネルがあるだけでも、同じ距離を移動するために必要な引張仕事が減少しました。[3]
つまり、収縮根は力任せに株を土へ引きずり込むのではなく、
- 根が横方向へ膨らむ
- 周囲の土を少し押し広げる
- 移動時の抵抗を減らす
- 根が縦方向へ短くなり、株を引く
という、効率的な仕組みを持つ可能性があります。
ただし、これは他の単子葉植物と模型を用いた研究です。ハオルチアの収縮根が、自生地でどの程度土を動かしているのかは直接測定されていません。
火災や食害から成長点を守る可能性もある
収縮根によって成長点を地中へ配置することには、火災や動物による食害から守る効果も提案されています。[1]
また、株を地表と同じ高さまで沈めれば、周囲の石や土に紛れ、動物から発見されにくくなる可能性があります。
ただし、今回確認した論文では、ハオルチアについて火災や食害の回避効果を直接測定していません。
Ariocarpus fissuratusについても、岩に紛れることで食害を避ける可能性は述べられていますが、実際の食害率を比較した研究ではありません。[6]
子株を親株から離す働きも提案されている
クローン状に子株を形成する植物では、収縮根が子株を親株から離れる方向へ動かし、別の場所へ定着させる機能も提案されています。[1][6]
親株のすぐ近くに子株が密集しすぎるのを防ぎ、光、水、養分、根を張る空間を確保するうえで有利になる可能性があります。
ただし、ハオルチアの子株が収縮根によって実際に横方向へ移動したことを測定したデータは、今回の論文群にはありません。
収縮根は、複数の植物群で繰り返し現れた
収縮根は、ハオルチアやアガベだけに見られる根ではありません。
シダ、ソテツ、単子葉植物、双子葉植物など、互いに離れたさまざまな植物群に存在します。
Northらが調べた系統分布は、収縮根という性質が一つの祖先から単純に受け継がれたのではなく、複数回獲得されたか、あるいは複数の系統で失われた可能性を示していました。[1]
つまり収縮根は、乾燥、極端な温度、動きやすい土壌など、似た環境上の問題に対して、異なる植物がたどり着いた似た解決方法なのかもしれません。
収縮根の意義を一言でまとめると
収縮根は、単に植物を地中へ潜らせるだけの根ではありません。
植物体の深さを調節しながら、株の固定、温度環境の調整、吸水、土中移動を助ける根
とまとめられます。
ただし、これらすべての機能がハオルチアで直接確認されているわけではありません。
現時点で確実にいえるのは、
- ハオルチア属内の4種に収縮根の構造が確認されている
- 一般的な収縮根は、横方向へ膨らみながら縦方向へ短くなる
- 別の多肉植物では、収縮根による株の沈下が実測されている
- 収縮域が吸水しやすい構造を持つ植物がいる
- 収縮根による位置調節が高温回避や株の固定に役立つ場合がある
というところです。
太い根なら、すべて収縮根なのか
PUKUBOOKの投稿では、ハオルチアを抜いたときに現れる極太の根を収縮根として紹介しています。
ただし、根が太いというだけでは、収縮根とは断定できません。
多肉植物の太い根には、
- 水を蓄える
- 養分を蓄える
- 株を固定する
- 乾燥後の再生に備える
など、さまざまな役割があります。
論文で収縮根を判定するときは、太さだけでなく、
- 株元に近い部分が放射方向へ太くなっている
- 根の表面に横じわがある
- 外側の組織や維管束が圧縮されている
- 皮層細胞が横長になり、長さ方向には短くなっている
- 収縮域の近くに側根が少ない
といった形態や内部構造を確認しています。

先ほどのハオルチアの写真もよく観察すると根の形質の違いが分かるのではないでしょうか。
Northらの研究では、太く多肉質な根を持つアロエも調べられましたが、収縮に特徴的な横じわや組織の圧縮が不足していたため、収縮根ではないと判定されています。[1]
そのため、
ハオルチアの太い根の中には収縮根が含まれる可能性があるが、太い根がすべて収縮根とは限らない
と考えるのが正確です。
収縮根は、先に土を押し広げている?
PUKUBOOKの投稿では、成長期の太い根が周囲の土を押し広げ、株が後から移動できる空間を作るように描かれています。
この説明には、他の単子葉植物を使った研究による間接的な裏付けがあります。
収縮根には、大きく分けて二つの力が働くと考えられています。
- 植物体を下へ運ぶ引張力
- 周囲の土を横へ押す力
収縮根の外側や中間部分が横方向へ膨張すれば、その分だけ周囲の土が押しのけられます。
Pützらは、地下器官の模型を砂の中で移動させる実験を行い、あらかじめ土中に小さな空間がある場合とない場合で、移動に必要な力を比較しました。
その結果、土中に小さな隙間があるだけでも、植物体を引っ張るための必要な力が減ることが分かりました。
短い距離の移動では、植物体全体が通れるほど大きな穴を作らなくても、わずかに土を押し広げるだけで移動が効率化されることが示されています。[3]
ただし、この研究はハオルチアの自生地で行われたものではありません。均質な砂と模型を使った力学実験です。
したがって、
ハオルチアの収縮根も、横方向への膨張によって土を押し、株が移動しやすい空間を作る可能性がある
とはいえますが、
ハオルチアが成長期に必ず土中に隙間を作る
とまでは断定できません。
「乾燥すると収縮根が縮む」は少し違う

今回の調査で、最も重要だと感じたのがこの部分です。
PUKUBOOKの図では、おおむね次の流れが描かれています。
- 成長期に収縮根が太くなり、土を押し広げる
- 乾季初期に給水根が枯れ、太い根が細くなる
- 土との間にできた隙間へ、株が引き込まれる
しかし、論文を読み比べると、ここでは二つの異なる「根が縮む現象」が混ざっている可能性があります。
株を引く収縮根の短縮
収縮根による株の移動は、主に根の長さ方向の短縮です。
細胞は横方向へ膨らみながら、縦方向には短くなります。
乾燥した根のしぼみ
一方、根が水分を失うと、根の直径そのものが小さくなる場合があります。
こちらは細胞が脱水して起こる、受動的な横方向の縮小です。
つまり、
| 現象 | 変化する方向 | 主な意味 |
|---|---|---|
| 収縮根の短縮 | 根の長さ方向 | 株を土中へ引く |
| 乾燥による根の縮小 | 主に根の直径方向 | 根と土の間に隙間を作る |
この二つは、仕組みも役割も異なります。
乾燥すると、根と土の間に隙間ができるのは本当
乾燥によって根が細くなり、土との間に隙間ができる現象自体は、実際に確認されています。
砂漠に生育するAgave desertiを使った研究では、乾燥させた根と周囲の土へ樹脂を流し込み、根と土の接触状態が調べられました。
その結果、乾燥が進むと根の直径が小さくなり、根と土の間に空気の層が形成されました。
容器栽培では根径が最大約34%、自生地では最大約40%小さくなったと推定されています。[5]
乾燥によってできた空気層は、根と土の間の水の移動を大きく制限します。研究では、根と土の境界部分における水の通りやすさが、およそ5分の1になると推定されました。[5]
一見すると、水を吸いにくくなるだけの不利な現象に見えます。
しかし、土が植物の根より乾燥している場合、根と土が密着していると、浸透圧差の関係で植物体側の水が乾いた土へ逆流する可能性があります。
根と土の間に空気の隙間ができることで、
- 雨が降った直後の吸水能力は低下する
- 一方で、根や植物体から乾いた土へ水を失いにくくなる
という効果が考えられています。
細い「給水根」は乾季に枯れるのか
PUKUBOOKの図では、乾季初期に「給水根」が枯れると説明されています。
これに近い現象は、アガベで確認されています。
Agave desertiには、株元から伸びる太い節根と、そこから枝分かれする細い側根があります。論文では、この細い側根を「rain roots」と呼んでいます。
30日間乾燥させると、根の中に水を通す能力は、
- 古い節根:低下は2倍未満
- 若い節根:約10分の1
- 細い側根:20分の1以下
になりました。
細い側根は乾燥に弱く、7日間乾燥させると、根の中で水を運ぶ管に空気が詰まり、水を通す能力が約98%低下しました。つまり、水をほとんど運べない状態になったということです。
その後に水を与えても、若い太い根は比較的よく回復したのに対し、細い側根は乾燥前の約21%、およそ5分の1までしか回復しませんでした[4]
乾燥すると、根の内部でもさまざまな変化が起こります。
根を形づくる細胞が水を失って小さくなり、さらに乾燥が進むと、一部の細胞が壊れて、根の内部にすき間や空洞ができます。
また、根の組織には水を通しにくくする防水性の物質が増え、根から水が出入りしにくい状態になります。さらに、水を運ぶ管の中へ空気が入り込み、水の流れが止まることもあります。
そのため、
乾燥地の多肉植物では、雨の後に生じる細い吸水根が、乾燥によって大きく損傷し、機能を失うことがある
という説明には根拠があります。
ただし、これはアガベの研究です。
今回調べた論文からは、
- ハオルチアにも同じrain rootsがある
- ハオルチア・クーペリーの細根が乾季初期に枯れる
- 細根が消失することで株が沈みやすくなる
- 細根の枯死が収縮根を作動させる
ということまでは確認できません。
したがって、PUKUBOOKの「給水根が枯れる」という部分は、他の乾燥地多肉植物の研究から類推した説明と考えるのがよさそうです。
収縮根は乾季だけに働くわけではなかった
収縮根が乾燥すると作動するのであれば、雨季には動かず、乾季だけに株が沈むように思えます。
ところが、研究結果はそれほど単純ではありません。
Northらの研究では、アガベやユッカは温室で定期的に水を与えられていましたが、それでも株の沈下が確認されています。[1]
また、Ariocarpus fissuratusでは、収縮は乾いた土壌だけでなく、十分に水を与えた条件でも起きました。季節によって収縮速度に差はありましたが、乾燥だけが収縮に必要な条件ではありませんでした。[6]
そのため、
乾燥すると収縮根がしぼみ、乾季だけ株が沈む
という説明は正確ではありません。
一方で、収縮根の強さと乾燥環境に関係がないわけでもありません。
アガベやユッカなどを比較した研究では、自生地の年間降水量が少ない種ほど、収縮量が大きい傾向が確認されています。[1]
ただし、論文は気温などの別の環境要因も降水量と連動している可能性を指摘しています。
正確には、
乾燥が収縮を直接引き起こすというより、強い収縮能力そのものが、雨の少ない環境に適応した性質である可能性がある
と考えられます。
ハオルチアが地中に埋まるメリット

収縮根一般の意義には、株の固定、吸水、温度環境の調節などが考えられます。
では、半地下性のハオルチアが地中に位置することには、どのような意味があるのでしょうか。
一つずつ深堀りしていきましょう、半地中なだけに。
地表の極端な温度の影響を調整する
地表近くは、植物にとって非常に過酷な環境です。
日射を受けた土壌表面は、気温よりはるかに高温になることがあります。小型の多肉植物は地面に近いため、その影響を強く受けます。
Haworthia retusaとH. turgidaを調べた研究では、葉の上部表面の最高・最低温度は、周囲の土壌表面温度とおおむね1℃以内でした。[7]
つまり、地表付近のハオルチアの温度は、周囲の土の温度に強く左右されます。
この研究で観察された自生株では、H. retusaの株体積の約41%、H. turgidaの約38%が地中にありました。[7]
ただし、ハオルチアが収縮根によって深くなった前後で、株温が何℃変わるのかを比較した研究ではありません。
植物体からの水分損失を抑える可能性
植物体の大部分が地中にあれば、乾燥した空気や風に直接さらされる面積を減らせる可能性があります。
そのため、高温回避や水分損失の抑制は、半地下生活の有力な意義ではあるものの、ハオルチアの収縮根について直接証明された機能とは分けて考えたほうがよさそうですね。
地中に埋まっているのに、どうやって光合成するのか

ハオルチアが地中へ潜れるとしても、葉が土の下に入ったら光合成できなくなるように思えます。
そこで重要になるのが、ハオルチアの「窓」です。
葉窓とは、葉の先端などにある透明または半透明の部分です。
その下には比較的透明な貯水組織があり、光合成を行う葉緑組織は、貯水組織の下や周囲に配置されています。
Haworthia truncataの葉内部を、全方向から光を検出する光ファイバープローブで測定した研究があります。
この研究では、H. truncataを、自然状態では葉の上端を除く大部分が地中にある植物として扱っています。[8]
外部から当たった光に対して、葉内部で測定された光量はおおよそ、
- 葉窓直下、深さ約0.2cm:約72%
- 葉中央の貯水組織、深さ約1.2cm:約18%
- 葉基部の葉緑組織、深さ約2.4cm:約7%
でした。
深くなるほど光は大幅に弱くなりますが、葉窓から入った光が、地中側にある葉の深部まで届くことは直接測定されています。[8]
つまりハオルチアは、
葉の大部分を地中に置きながら、地表に残した葉窓から内部へ光を取り込む
ことができるわけです。
ただし、葉窓が大きいほど内部へ多くの光が届くという単純な関係は確認されませんでした。葉窓の面積だけでなく、葉の厚さ、内部組織の透明度、細胞による光の散乱なども関係すると考えられます。[8]
また、葉窓からは可視光だけでなく近赤外線も入り、葉内部の熱負荷を増やす可能性も指摘されています。[8]
写真のハオルチア・クーペリーも収縮根で潜るのか
PUKUBOOKの投稿写真は、Haworthia cooperi var. piliferaとされています。
Haworthia cooperiについては、葉の形態や内部構造を調べた研究があります。
その研究では、H. cooperiを含むハオルチアの一群に、
- 大きな葉窓
- 発達した貯水組織
- 小型で密なロゼット
- 乾燥環境に対応した表皮や気孔
などが確認されています。[9]
同研究では、葉窓を持つハオルチアの適応戦略を、
水を多く蓄え、葉窓から内部の光合成組織へ光を届ける
ものとまとめています。[9]
したがって、H. cooperiが、葉の大部分を地中に置く生活に適した葉の構造を持っていることは研究から支持されます。
しかし、今回確認した論文では、
- H. cooperiに収縮根があるか
- var. piliferaにも同じ根があるか
- 自生地で年間何mm沈むのか
- 雨季と乾季で株の位置が変わるのか
- 細根の枯死と沈下が連動しているのか
は直接調べられていません。
そのため、
投稿写真のクーペリーも、確認された4種と同じように収縮根で潜っている
と断定することはできません。
今回確認できたのは、
ハオルチア属内の別の4種には収縮根があり、クーペリーには半地下生活に適した葉窓と貯水組織がある
というところまでです。
お家でも「自分から潜る姿」を再現できる?
PUKUBOOKの投稿では、植物自身に潜らせることで、究極のハビタットスタイルを再現できるのではないかと考察されています。
理屈の上では、収縮根を持つ植物が、栽培中に株元を下げる可能性はあります。
ただし、今回調べた論文には、
- ハオルチアを浅植えして沈下量を測る
- 水やりを減らして収縮を誘導する
- 用土の粒径による違いを比較する
- 深鉢と浅鉢で収縮根の発達を比べる
- クーペリーを長期間撮影して深さを記録する
といった栽培実験はありませんでした。
特に、
乾燥させれば収縮根が縮んで潜る
と考えて、強い断水をするのは避けた方がよいでしょう。
アガベの研究では、乾燥によって細い側根の通水能力が20分の1以下になり、再給水後も十分に回復しないことが確認されています。[4]
ハビタットスタイルを再現するために根を傷めてしまっては本末転倒ですよね。

収縮根の動きを観察したい場合は、意図的に強く乾燥させるのではなく、
- 根を伸ばせる深さのある鉢を使う
- 根の発達を妨げにくい用土にする
- 植え付け時の株元の高さを記録する
- 鉢や土の高さにも目印を付ける
- 同じ角度から定期的に写真を撮る
- 土の沈み込みと株自体の移動を区別する
- 数か月から年単位で変化を見る
といった方法が現実的です。
まとめ:ハオルチアは本当に「自分で潜る」。ただし仕組みは想像より複雑だった

はい、すんごく長くなってしまいましたね。最後までご覧いただきありがとうございます。
Instagramで「ハオルチアは根っこを使って自分で土へ潜る」という投稿を見て、本当にそんなことがあるのか論文を調べてみました。
結論として、ハオルチアが収縮根によって株を下方向へ引くという話は、おおむね本当です。
ハオルチア属内の少なくとも4種では、収縮根に特徴的な構造が確認されています。
ただし、収縮根は乾燥して単純にしぼむ根ではありません。
株元に近い根の細胞が横方向へ膨らみながら、長さ方向へ短くなることで、根の基部全体を縮め、植物体を下へ引きます。
さらに収縮根は、単に植物を潜らせるだけではなく、
- 株を適切な深さへ配置する
- 砂質土壌などで株を固定する
- 地表の極端な温度を避ける
- より湿った位置から新しい根を出す
- 株元付近で少量の雨を吸収する
- 土を押し広げて移動抵抗を減らす
といった複数の意義を持つ可能性があります。
一方で、
- 乾季初期に給水根が枯れる
- 収縮根が痩せて土との間に隙間を作る
- その隙間へ株が引き込まれる
- 雨季と乾季で毎年上下する
という一連の流れは、ハオルチア・クーペリーで直接証明されたものではありません。
投稿では、収縮根による能動的な縦方向の短縮と、乾燥による根の受動的な横方向のしぼみが、ひと続きの現象として説明されている可能性があります。
それでも、「ハオルチアが自分で潜る」という中心部分に研究上の裏付けがあったことは、かなり面白い発見でした。
確かに大きくなったミラーボールは高さ変わってないわ。
んで、さらにハオルチアの半地下生活は、収縮根だけで成立しているわけではありません。
- 株を適切な深さへ引く収縮根
- 地中の葉へ光を届ける葉窓
- 水を保持する大きな貯水組織
- 高温を和らげる岩や土壌の微小環境
- 少ない雨を利用する根の吸水構造
こうした複数の仕組みが組み合わさることで、ハオルチアは地表すれすれという過酷な場所で生きられるのでしょう。
PUKUBOOKの投稿を見なければ、ここまで収縮根について調べることもなかったですね。
ありがとう!PUKUBOOK!
ハオルチアが潜る仕組みは「乾いた根がしぼむ」という単純なものではなく、生きた根の細胞が形を変え、株の位置と周囲の環境との関係を調整する、想像以上に精巧な仕組みだったんですねぇ。
植物のことを調べるのは楽しいです!
これをきっかけにもっとハオルチアについて深堀りしていきたいと思います!潜る仕組みの記事だけに!(天丼)
今回確認した主な論文
- North, G.B., Brinton, E.K. & Garrett, T.Y.(2008)Contractile roots in succulent monocots: convergence, divergence and adaptation to limited rainfall. Plant, Cell & Environment, 31(8), 1179–1189. DOI: 10.1111/j.1365-3040.2008.01832.x
- Pütz, N.(1995)A re-evaluation of the mechanism of root contraction in Monocotyledons using the example of Arisarum vulgare Targ.-Tozz. (Araceae). Flora, 190(3), 285–297. DOI: 10.1016/S0367-2530(17)30666-7
- Pütz, N., Hüning, G. & Froebe, H.A.(1995)Cost and advantage of soil channel formation by contractile roots in successful plant movement. Annals of Botany, 75(6), 633–639. DOI: 10.1006/anbo.1995.1069
- North, G.B. & Nobel, P.S.(1991)Changes in hydraulic conductivity and anatomy caused by drying and rewetting roots of Agave deserti (Agavaceae). American Journal of Botany, 78(7), 906–915. DOI: 10.1002/j.1537-2197.1991.tb14494.x
- North, G.B. & Nobel, P.S.(1997)Root–soil contact for the desert succulent Agave deserti in wet and drying soil. New Phytologist, 135(1), 21–29. DOI: 10.1046/j.1469-8137.1997.00620.x
- Garrett, T.Y., Huynh, C.-V. & North, G.B.(2010)Root contraction helps protect the “living rock” cactus Ariocarpus fissuratus from lethal high temperatures when growing in rocky soil. American Journal of Botany, 97(12), 1951–1960. DOI: 10.3732/ajb.1000286
- Nobel, P.S.(1989)Shoot temperatures and thermal tolerances for succulent species of Haworthia and Lithops. Plant, Cell & Environment, 12(6), 643–651. DOI: 10.1111/j.1365-3040.1989.tb01233.x
- Egbert, K.J., Martin, C.E. & Vogelmann, T.C.(2008)The influence of epidermal windows on the light environment within the leaves of six succulents. Journal of Experimental Botany, 59(7), 1863–1873. DOI: 10.1093/jxb/ern105
- Nuzhyna, N.V. & Gaydarzhy, M.M.(2015)Comparative characteristics of anatomical and morphological adaptations of plants of two subgenera Haworthia Duval to arid environmental conditions. Acta Agrobotanica, 68(1), 23–31. DOI: 10.5586/aa.2015.006