はいどうも、もじゃさんです。
前回、ハオルチアが「収縮根」という特殊な根を使って、自分の株を土の中へ引き込むという話を調べました。
で、その記事を書いていて思ったんですよ。
「参考文献として載せた論文、せっかくだから1本ずつ解説載せていこう」
ということで今回は、その1本目。
Northらが2008年に発表した、Contractile roots in succulent monocots: convergence, divergence and adaptation to limited rainfall という論文を、植物の論文なんぞ普段読まんぞという人にも分かるように読み解いていきます。
ものすごくざっくり言うと、
「多肉植物の収縮根って、雨の少ない環境で生きるための適応なんじゃないの?」
を、形・動き・進化・水の流れまで含めて調べた研究です。
ハオルチアだけの研究ではありません。アガベ、ユッカ、アロエ、ガステリア、ハオルチアなど、合計73種を比較しています。[1]
- 1. 先に結論:収縮根は「潜るための根」だけではなかった
- 2. そもそも、この論文では何を調べたの?
- 3. 73種を調べたら、40種に収縮根があった
- 4. なぜ離れた植物に同じ「収縮根」がある?この論文のもう一つの本題
- 5. ハオルチアは、調べた4種すべて「収縮根あり」
- 6. 研究者は何を見て「これは収縮根」と判断したのか
- 7. 収縮するとき、根の中では何が起きているのか
- 8. でも、そんなに根が変形したら中身ぶっ壊れないの?
- 9. 本当に植物は下へ動いたのか
- 10. 論文のFigure 5では、1年で数cm動く種類までいたことが分かった
- 11. 雨が少ない地域の植物ほど、よく縮んでいた
- 12. 乾燥地で株を下へ引くと何がうれしいのか
- 13. そして、この論文のもう一つの本丸が「水の通りやすさ」
- 14. なぜ収縮域は水を通しやすいのか
- 15. 細い側根を増やす方法とは、別の戦略かもしれない
- 16. この論文からハオルチアについて「言えること」と「言えないこと」
- 17. 園芸的にはどう観察すればよいか
- 18. まとめ:この論文の本質は「潜る根」より、その先にある
- 19. 今回読んだ論文
先に結論:収縮根は「潜るための根」だけではなかった

この論文の面白さを先に一言でまとめると、
収縮根は、株を土の中へ引き下げるだけでなく、少ない雨を利用しやすくする仕組みまで持っている可能性がある。
というところです。
- 根の一部が縦方向へ短くなり、株を土中へ引く
- アガベやユッカでは、雨の少ない地域に生える種類ほど収縮量が大きい傾向がある
- 収縮根の株元側は、根の表面から内部へ水を通しやすい
- 収縮根という性質は、いろんな種で確認されているから、何度か獲得・喪失された可能性がある
- ハオルチアでは、調べられた4種すべてが収縮根ありと判定された
根っこ、お前すごいな。
そもそも、この論文では何を調べたの?

研究者たちが大きく確かめたかったのは、次の3つです。
- どの植物が収縮根を持っているのか
- 収縮の強さと、自生地の雨の少なさに関係があるのか
- 収縮する部分は、水を通しやすいのか
そのために、
根の外見を見る
↓
根を切って中の組織を見る
↓
株が本当に下へ動くか測る
↓
根の中へ水がどれくらい通るか測る
ところまでやっています。
「なんかシワシワしてるし収縮根っぽいよねー」で終わってない。
形を見る。中を見る。動きを測る。水の流れまで測る。
かなりガッツリです。
73種を調べたら、40種に収縮根があった

まず、アガベ科とアスフォデラ科を中心に73種の根を調べたところ、
73種中40種、約55%
に収縮根が確認されました。[1]
- アガベ:約64%
- ユッカ:約85%
- 今回調べたアロエ:収縮根ありと判定された種は0
ここだけ見ると、
「乾燥地のロゼット型多肉なら、だいたい同じような根なんじゃね?」
と思いそうなんですが、そう単純ではないようです。
地上部が似ているからといって、根っこまで同じ進化をしているわけではなかった。
ここから、この論文タイトルにある「convergence」と「divergence」の話につながります。
なぜ離れた植物に同じ「収縮根」がある?この論文のもう一つの本題

論文タイトルにある convergence は「収斂」、divergence は「分岐・分化」といった意味です。
なんのこっちゃですよね。
今回73種を並べてみると、収縮根は「この一族なら全員持っている」という、きれいな分布をしていませんでした。
アガベにも、あるやつとないやつがいる。
ユッカにも、あるやつとないやつがいる。
今回調べたアロエにはない。
なのに、同じアスフォデラ(ツルボラン)科側のガステリアやハオルチアにはある。
なんでやねん。
って思った研究者たちは、この入り組んだ分布が、収縮根という性質が進化の途中で何度か独立して獲得された、あるいは何度か失われた可能性と一致すると考えています。[1]
ただし、遺伝的な仕組みまでは分かっていないため、この論文でも「完全に独立した収斂進化なのか、似た遺伝的土台を使った平行進化なのか」までは決めていません。
なので言えるのは、
系統の違う植物たちが、似た環境問題に対して「根を縮めて株の位置を調節する」という似た仕組みにたどり着いた可能性がある。
ということ。ロマンです。
収縮根って、単なる珍しい根じゃなくて、植物が乾燥環境にどう適応してきたのかを見る材料でもあるんですねぇ。
ハオルチアは、調べた4種すべて「収縮根あり」

で、ハオルチア好きとして一番気になるところです。
この論文で調べられたハオルチアは次の4種。
- ハオルチア・シンビフォルミス(Haworthia cymbiformis)
- ハオルチア・ファスキアータ/十二の巻(原著表記:Haworthia fasciata/現在:Haworthiopsis fasciata)
- ハオルチア・レツーサ/寿(Haworthia retusa)
- ハオルチア・ヴェノーサ(原著表記:Haworthia venosa/現在:Haworthiopsis venosa)
※この4種の名前は、2008年の原著で使われた分類を基本にしています。その後、分類が見直され、Haworthia fasciata と Haworthia venosa は現在ではそれぞれ Haworthiopsis fasciata、Haworthiopsis venosa として扱われています。論文の内容と照らし合わせやすいよう、ここでは原著名と現在名を併記しています。
この4種はすべて、CR=Contractile Root、つまり収縮根ありと判定されています。[1]
おお。
ハオルチア、本当に収縮根あるやん。
ただし。
ここ超大事です。
この論文で、ハオルチアの株が「1年間に何mm沈んだか」を測ったわけではありません。
ハオルチアについて言えるのは、調査された4種の根が、形態・解剖学的な基準から収縮根と判定されたということです。
「ハオルチア4種に収縮根が確認された」は言える。
「ハオルチアは1年で○cm潜る」は、この論文だけでは言えない。
ここをごっちゃにしちゃいかんのです。
研究者は何を見て「これは収縮根」と判断したのか

では、太い根を見つけたら全部収縮根なのか。
んなこたぁないのです。
研究では、主に次のような特徴を見ています。
- 株元に近い部分が横方向へ太くなっている
- 根の表面に横じわがある
- 収縮する株元側には側根が少ない
- 内側や中間の皮層細胞が横方向へ広がっている
- 外側の組織や維管束が圧縮されている
つまり、「太いかどうか」ではなく、本当に縦方向へ縮んだ痕跡があるかを見ているわけです。

うちのやつも縮んでそうな奴とつるつるのそうでない奴とが混在しています。
実際、論文に出てくる Aloe cooperi も太く多肉質な根を持っていました。
ぱっと見たら「これ収縮根じゃね?」となりそうなんですが、横じわや内部構造の変化が十分ではなく、収縮根ではないと判定されています。
太い根=収縮根、ではない。
ハオルチアを植え替えたときも、ここは覚えておきたいところです。
収縮するとき、根の中では何が起きているのか

この論文のFigure 2がかなり面白いです。
収縮域では、株元に近い部分にある内側や中間の皮層細胞が横方向へ広がります。
そして、横へ広がるのと同時に、根の長さ方向には短くなる。
イメージとしては、
縦に積んだクッションを、ムニッと横へ広げた感じ。
1個1個の細胞が横へ広がりながら縦に短くなり、それが積み重なることで、根全体も縦方向へ短くなります。
論文中のユッカ類では、収縮域の内側皮層細胞が、同じ根の非収縮域に比べて約25~30%短く、横幅は約2倍になっていました。[1]
ただし、これも注意。
「25~30%」「約2倍」はハオルチアで測った数字ではありません。
Figure 2で細胞サイズを比較したユッカの根で確認された値です。
内側の細胞がムイッと横へ膨らみながら短くなるもんだから、外側の組織も当然押されます。
- 外側の皮層細胞が圧縮される
- 維管束も押されて波打つ
という変化が起きます。
つまり、あの横じわは水が抜けてしなびただけのシワとは別物なんです。
でも、そんなに根が変形したら中身ぶっ壊れないの?

私がここを読んでいて思ったのがこれです。
横に広げて、縦に縮めて、外側まで押しつぶす。
配管折れそうじゃん。
ところが収縮域では、内皮やその周辺の細胞壁のスベリン化・リグニン化が比較的少ないことが確認されています。
スベリンやリグニンが増えると組織は丈夫になる一方、硬くなります。
収縮する場所ではそれらが比較的少ないことで、曲がったり押されたりしても組織全体が破断しにくい状態になっている可能性があります。
実際、外側の皮層細胞には圧縮による損傷が見られた一方で、表皮・外皮・内側の皮層・維管束などは保たれ、根毛が残っている場合もありました。[1]
縮む。
でも、水を通すための組織はなるべく残す。
うまいことできてますねぇ。
本当に植物は下へ動いたのか
根が「縮みそうな見た目」をしているだけでは、本当に株を引っ張っている証拠にはなりません。
そこで研究者たちは、株元に細いワイヤーを付け、鉢の土の高さにも印を付けて、株元がどれだけ下がったかを測りました。
しかも、土そのものが沈んだ分は補正しています。
「水やりしたら土が沈んだだけでした」というオチではありません。
Figure 4の8週間の実生試験では、収縮根を持つ3種で実際に株元が下がりました。
- Yucca schidigera:約9mm
- Agave mckelveyana:約21mm
一方、収縮根を持たない Agave attenuata では、有意な沈下は確認されませんでした。[1]
論文のFigure 5では、1年で数cm動く種類までいたことが分かった
さらにFigure 5では、2~3年生の植物を1年間追跡しています。
アガベ16種では、Agave deserti が年間60mm近く株元を下げました。
6cmですよ。
根っこが植物を引っぱって、1年で6cmくらい位置を変える種類がある。
思ってたより普通に動いとる。
ただし種差は大きく、アガベ16種のうち7種では測定できるほどの沈下がありませんでした。
ユッカ類では、調べた7種のうち1種を除いて1年間の沈下が確認され、収縮した6種の平均は年間34.7mm。Hesperoyucca whipplei は年間40mm沈みました。[1]
つまりFigure 5が見せているのは、
「収縮根を持つ植物は全部同じように潜る」のではなく、収縮の強さにはかなり大きな種差がある。
ということです。
そしてもう一度。
この年間沈下量は、ハオルチアの測定値ではありません。
雨が少ない地域の植物ほど、よく縮んでいた
次に研究者たちは、アガベ・ユッカ類が自生する地域の年間降水量と、1年間の収縮量を比べました。
すると、かなりはっきりした傾向が出ました。
雨が少ない地域に生える種類ほど、収縮量が大きい。
論文のFigure 6では、この関係は統計的にもかなりはっきりしていて、P<0.0001、調整済みR²は0.62でした。[1]
難しい数字ですが、ざっくり言えば、「偶然だけでは説明しにくい関係が見られ、この単純な回帰では種ごとの収縮量の違いの約62%が年間降水量との関係で説明された」という意味です。
ただし、ここはかなり大事です。
Figure 6は、雨の量を人為的に変えて「雨が少ないと根がより縮むか」を直接試した実験ではありません。 24種について、自生地の年間降水量と、それぞれの植物がどれくらい収縮したかを比べた「種どうしの相関」です。
さらに、近い仲間どうしは祖先から受け継いだ性質も似やすいので、24種を完全にバラバラの24個のデータとして扱えるとは限りません。原著では、この回帰について系統関係を考慮して補正する比較手法を使ったという記載はありません。
なので、このFigure 6だけから「雨が少ないことが収縮根を進化させた」と因果関係まで断定することはできません。

読者としては、「少雨環境と収縮能力の強さには関係が見られ、収縮根が乾燥地への適応であるという仮説を支持する一つの証拠になった」くらいに読むのがちょうどいいです。
ほほう。
となると、
「収縮根は乾燥地で生きるための適応なんじゃね?」
という話になってきます。
しかもこの年間収縮量は、温室で定期的に水を与えられた植物で測っています。
つまり、この結果は「その場で乾かしたら縮んだ」という実験ではありません。
自生地がより少雨な種類ほど、栽培条件下でも大きな収縮能力を示したということです。
ただし、雨が少なければ必ず収縮根になるという単純な話でもありません。
論文でも、降水量だけではすべて説明できず、気温など他の環境条件が一緒に影響している可能性を指摘しています。
実際、かなり乾燥した地域に生えるアロエでも、今回調べたものには収縮根がありませんでした。
なので正確には、
少雨環境と強い収縮能力にはかなり強い関係がありそう。ただし、雨だけですべて説明できるわけではない。
というところです。
乾燥地で株を下へ引くと何がうれしいのか
では、なんで乾燥地で株を下へ引く必要があるのでしょうか。
論文では、いくつかの利点が考察されています。
より湿った場所から新しい根を出せる
アガベ科の植物は株元から新しい不定根を出します。
株元そのものが少し深い位置へ移動すれば、新しく出る根も、より湿りやすい場所からスタートできます。
地表カラッカラ。
ちょっと下はまだ湿ってる。
という環境なら、最初からちょっと下にいた方が有利じゃんという話ですね。
温度変化の小さい場所を使える
地表は日射で高温になったり、夜になると急激に冷えたりします。
少し深い位置の土は、それより温度変化が穏やかです。
少なくとも Agave deserti では、より穏やかな土壌温度が根の成長に有利になる可能性が挙げられています。[1]
砂の中で株を固定しやすい
乾いて動きやすい砂質土壌では、小さな実生が抜け上がったり、株元が不安定になったりします。
収縮根で株を下へ引けば、株を固定、あるいは再固定するのに役立つ可能性があります。
面白いのがジョシュアツリー、Yucca brevifolia。
この樹木状のユッカでは、根のかなり広い範囲が収縮性を持っていました。
でかい地上部を支えなきゃいかんので、根っこ側も本気出してるのかもしれません。
そして、この論文のもう一つの本丸が「水の通りやすさ」
ここ、かなり面白いです。
収縮根は、株を引っぱるだけではありません。
研究では、収縮根を持つ植物3種と、持たない植物4種について、根の水理コンダクタンス=水の通りやすさを測っています。[1]
比べたのは、
- 株元に近い「基部」
- 根の途中にある「中間部」
です。
普通の根なら、株元側は古い組織です。
根は古くなるにつれてスベリンやリグニンが増え、水を通しにくくなることがあります。
なので普通なら、
古い株元側より、若い根の途中の方が水を通しやすそう
ですよね。
ところが収縮根では逆でした。
収縮根では、株元に近い収縮域の方が、根の中間部分より根の表面から内部へ水を通しやすかった。
ここで出てくる「1.88」と「0.71」は、野外で吸った水の量が1.88倍、0.71倍だったという数字ではありません。

正確には、root hydraulic conductance(LP:根の中へ水がどれくらい通りやすいかを表す値)の「株元側の基部 ÷ 根の中間部」の比です。収縮根では平均約1.88、収縮しない根では約0.71でした。[1]
測定方法も、自然の雨の中で植物が何mL吸ったかを測ったものではありません。研究者は切り出した根の一部を蒸留水に入れ、圧力を下げて水を通し、どれくらい流れるかを測っています。
なので、この実験で直接分かったのは、「収縮根を持つ植物では、株元に近い収縮域の方が、根の中間部より水を通しやすかった」ということです。
その結果から著者たちは、収縮域が少ない雨を素早く取り込むのに有利な吸水部位になっている可能性を考えています。
そして、ここもハオルチア読者には大事。
この通水能力の測定に、ハオルチアは含まれていません。
「ハオルチアでも1.88倍吸います!」とはまでは言えないのです。
なぜ収縮域は水を通しやすいのか

その理由として考えられているのが、収縮域の特殊な構造です。
- 内皮や周辺組織のスベリン化・リグニン化が比較的少ない
- 根の表面から木部まで、水が通る経路の連続性が保たれている
- 生きた皮層細胞が残る
- 根毛が残っていることがある
- 横方向へ膨らむことで、周囲の土と接触しやすい
要するに、
株元側なのに、ガチガチの「防水加工」が進みすぎていない。
そのため、水が土 → 根の表面 → 根の中心へ通りやすい状態が残っています。
乾燥地では、少し雨が降っても深いところまで水が届かず、地表近くの土だけが一時的に湿ることがあります。
そんなとき、株元近くの収縮域が水を通しやすければ、少ない雨をすぐ利用できる可能性があります。
さらに面白いのが、水の流れる方向です。
収縮根の株元側では、根の表面から中心へ向かう水の移動はしやすい一方で、木部を根の長さ方向へ流れる能力は低めという傾向がありました。[1]
論文では、この特徴が、
- 植物体から乾いた土へ水が逆流するのを抑える
- 吸水を地表近くに集中させる
方向に働く可能性も考察されています。
潜る。
雨も拾う。
植物体の水も逃がしにくくするかもしれない。
収縮根、なかなか芸達者です。
細い側根を増やす方法とは、別の戦略かもしれない

乾燥地植物には、雨が降ったときだけ細い根を増やして水を取る戦略を持つものもあります。
ところが、この研究で収縮根を持つアガベやユッカでは、収縮する株元近くに側根が少ない傾向がありました。
一方、収縮根を持たないいくつかの種では、株元近くに側根が多く見られました。[1]
著者たちは、乾燥地では、雨が降るたびに新しい側根を作るよりも、
もともとある収縮域を水の通りやすい状態にしておけば、雨の直後から利用しやすい
という利点がある可能性を考えています。
新しい根が伸びるのを待たなくていい。
雨きた。
はい吸う。
くらいの感じ。
乾燥地では、こういう一瞬のチャンスを逃さない仕組みが大事なのかもしれません。
この論文からハオルチアについて「言えること」と「言えないこと」

ここはかなり大事なので、最後に整理しておきます。
この論文から言えること
- 調査されたハオルチア4種は、収縮根ありと判定された
- ハオルチアと同じアスフォデラ科側のガステリアにも収縮根が確認された
- 収縮根という性質は、複数の系統に入り組んで分布している
この論文だけでは言えないこと
- ハオルチアが1年間に何mm沈むのか
- すべてのハオルチアが収縮根を持つのか
- ハオルチア・クーペリーやオブツーサにも必ず同じ仕組みがあるのか
- ハオルチアの収縮域が、アガベやユッカと同じ通水特性を持つのか
- 乾燥させればハオルチアの収縮が強くなるのか
論文を読むと、つい「じゃあハオルチアも全部こうなんだ!」と広げたくなるんですが、
そこは一旦止まりましょう。
研究で直接確認されたことと、そこから考えられることは分けた方がいいです。
その方が、次の論文を読んだときに、
「あ、ここまで証拠がつながった!」
ってなるので面白いですしね。
園芸的にはどう観察すればよいか

この論文を読んで、
「よし、ハオルチアを乾かして潜らせよう!」
となるのはちょっと待ったです。
この研究では、ハオルチアを断水させて収縮を誘導する栽培試験は行っていません。
さらに、年間の収縮量を測ったアガベやユッカは、温室で定期的に水を与えられていても収縮しています。
つまり、「乾燥させること自体が収縮根を動かすスイッチ」と、この論文から結論づけることはできません。
園芸で観察するなら、無理に乾燥ストレスをかけるより、
- 植え付け時の株元の高さを記録する
- 鉢にも基準となる印を付ける
- 土自体の沈み込みと区別する
- 同じ角度から定期的に写真を撮る
- 数か月~年単位で観察する
という方が面白そうです。
毎月1枚ずつ同じ位置から写真を撮っておいて、1年後に並べてみる。
「いや、普通に潜っとるやん」
ってなるかもしれません。
まとめ:この論文の本質は「潜る根」より、その先にある

Northら(2008)の論文を読み解いてみて、一番面白かったのは、収縮根を単なる「植物を土へ潜らせる根」として見ていなかったことです。
この研究では、収縮根を、
- 株の位置を土中へ調節する
- 乾燥地ほど強く現れる傾向がある
- 株元側で水を通しやすい構造を持つ
- 系統の違う植物で何度か現れた、あるいは失われた可能性がある
という、形態・生態・水分生理・進化をつなぐ器官として見ています。
73種を比較した結果、40種に収縮根が確認され、ハオルチアでは調べられた4種すべてが収縮根ありと判定されました。
アガベやユッカでは、雨の少ない地域の種類ほど収縮量が大きい傾向があり、さらに収縮域は根の表面から内部へ水を通しやすい構造を持っていました。[1]
そして収縮の仕組みも面白いですね。
乾いてシワシワになるのではなく、皮層細胞が横へ広がりながら縦へ短くなり、根そのものの長さを縮めている。
植え替えのときに何気なく見ていた、あの太くてシワのある根。
もしかしたら、ただの太い根ではなく、株の位置を調節しながら、少ない雨を利用するのにも役立つ高機能な根なのかもしれません。
しかも、その仕組みが一つの系統だけに閉じず、進化の中で何度か現れた可能性まである。
根っこって地味だけど、調べるとめちゃくちゃ面白いですね。
地上部だけ見て植物を分かった気になってはいかんなぁ。
ということで、次の論文も読んでいきます。
参考文献を深掘りする記事だけに、どんどん深く潜っていきましょう。
収縮根だけに!
今回読んだ論文
[1] North, G.B., Brinton, E.K. & Garrett, T.Y.(2008)Contractile roots in succulent monocots: convergence, divergence and adaptation to limited rainfall. Plant, Cell & Environment, 31(8), 1179–1189. DOI: 10.1111/j.1365-3040.2008.01832.x