組織培養について

もじゃさんと植物の出会い

もじゃさんが植物道に突っ走るきっかけとなったニンジンの組織培養。
幼き日に読んだ小学館の発刊する 学習百科図鑑 植物の図鑑 にほんとにちょこっと載っていた写真。

↓ 学習百科図鑑 植物の図鑑

 

フラスコの中に人参のかけらがあって、何かモコモコしたものが大きくなっている写真。

小もじゃ「うぉぉぉぉぉっ、なんじゃこりゃ!!すげぇ」

小もじゃ「つくってみたい!」

就職活動するときに自己分析の一環でなぜ自分がこんなにも植物に惹かれるか
一生懸命探った結果、一番古くてインパクトのあった記憶がこれでした。

余談ですが、自己分析の時に見つかった
自分のテーマは「自分の知識や技術で楽しんでもらうこと」です。
今やっていることの軸にはこれがあります。

組織培養という技術

組織培養

さて、ちょっと本題からそれそうでしたが

農業界、特に洋蘭業界にとっては組織培養は画期的な技術です。
ある植物体から全く同じ性質を持つ植物体を大量に複製できる。
植物は動物と違ってほとんどの細胞が万能細胞のような特徴を持っており、
条件が整えば、万能細胞のまま細胞増殖したり、そこから根っこや葉っぱを生やすことができます。

しかし、この組織培養を経てクローン個体(メリクロン)を
安定的に生産するまでにはものすごーーーく大変な道のりなのです。

まずカルスを作らないといけないのですが
カルスの少ししないといけないですね。

カルスとは

寒天に所定の栄養を混ぜて作った固形培地の上で培養されている分化していない状態の
植物細胞の塊ことをカルスと言います。

もともとは、植物に傷ができたとき、傷口をふさぐための未分化状態の癒傷組織のことを指していたそうです。いずれにしても、形成過程の違いこそあれ、「分化していない植物細胞の塊」という点では意味は同じととらえます。

ここが組織培養のスタートです。

カルス作成の下準備

植物細胞の分化は何種類かの植物ホルモンの濃度比によって制御されています。
ざっくり大きく分けると関係するものは2種類ありまして、根っこを作れの指令を司るオーキシン類、葉っぱや茎を成長させなさいの指令を司るサイトカイニン類があります。
オーキシンにもサイトカイニンにもかなりの種類がありまして、こいつらを適切な種類と濃度の組み合わせで上記の寒天培地に添加して植物細胞片が分化全能性をある細胞のまま増える条件を探し出さないといけません。

培地に乗せる植物細胞片も下処理が大変です。

まずウイルスや病原菌の感染のない物を使わないと、細胞が増えたとしても感染したものが増えてしまいます。
なので、そういった感染のない成長点や種子を使います。

また、栄養豊富な寒天培地を使いますので、簡単に雑菌などが増えてしまい目的の細胞片がダメになってしまうことが多々あります。

それを防ぐために、種子や植物細胞片を殺菌力の高い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を
使って滅菌処理を行い、70%エタノールを使ってリンスして、
不純物の混入が100万分の1以下の以下のmilli-Qという純水を使ってきれいに洗い流します。

実験に使う用具や培地の入れるシャーレも加圧加熱滅菌や紫外線による滅菌なので
コンタミの確率を極限までゼロに近づけます。
(※コンタミ=実験汚染
カビとか雑菌とか増えて試料がダメになること→コンタミネーション:contamination)

そんなわけで、ここまで手の込んだ下準備をして
先ほど述べた植物ホルモンの組み合わせと濃度探しです。

こんな感じ↓の一度にたくさんの試料を入れられる細胞培養用マルチディッシュというものを使って

組織培養とは マルチディッシュ
縦列にオーキシンの何某を1倍、10倍、100倍…
横列にサイトカイニンの何某を1倍、2倍、3倍、4倍、5倍…

のような感じで濃度を振って良さげな反応を示すところを探し出して
さらに濃度の幅を絞って、ここだっ!!という濃度の組み合わせを探し出します。

ここまでで、カルスの作製・維持、植物個体への再分化の操作の第一歩ですw

カルスを実験などに使えるようにするために

カルスが出来たら次は初期増殖と継代です。

せっかくできたカルスは、最初の状態では本当に耳かき一杯分しかできません。
それでは実験などに使うには効率が悪すぎるのでカルスのままを大きく育てます。

これまた植物によっては必要な栄養素の条件が違うので、育てるための培地作りも大変なんです。

通常はできたカルスを切り分けで諸々の栄養素の入った寒天培地の上に4か月から6か月置いて
大きくしたところで個体分化を始めます。
大きい細胞塊の方がたくさん個体作れますし。

でも、これで全部使ってしまうとまーたカルスから作り直しで手間ばっかかかって
カルスの利点をフルに活かせません。

そこで、継代培養というものがあります。

主に液体培地でカルスを大量に増やしてストックしておくという手法です。

物理的な振動などでカルス塊を1つ1つの細胞の状態にほぐしてあげます。
その後、液体培地にこれまた諸々の栄養素を入れて
養液の中が酸欠にならないように一定の速度でかき混ぜ続けながら
養液の中が細胞だらけになるまで培養します。

そうしてできた培養液を極低温で凍らせて-80度の冷凍庫に入れて保存します。

次回以降カルスを作るときはこのストックから爪楊枝でちょびっととったものを
液体培地でがっつり増やしてカルス作成用の寒天培地に塗ってカルスを作ります。

カルス培養の系が確立したら

これで組織培養の一つの系が確立されましたので

ここから植物実験用の資材を大量に生産したり、産業用に個体を複製したりします。

カルスはただ個体を大量生産するだけではなく、品種改良にも用いられます。

カルスは通常の植物細胞とは異なり細胞壁がありません。細胞膜に簡単な処理をするだけで遺伝子組み換えや細胞融合による品種交配ができます。
例としてはトマトのカルスとジャガイモのカルスを融合させたポマトとか。
ちなみに、ポマトは細胞融合による雑種の最初の例だそうです。

もじゃさんが行っていたカルス作成のお話

緒論

さて、そんな楽しいカルス作成ですが、もじゃさんの大学~大学院時代に研究テーマの一環として行っていました。

実験資材はエアプランツのイオナンタ(Tillandsia Ionantha)

これは高校1年の時にさかのぼるのですが、母が買ってきた
イオナンタをみて「これおもしれ―」と思ってはまったのと

よくよく調べてみたら、通っていた高校の付属大学がこのイオナンタの研究を
行っていたので高校1年の段階で進路が決定していたのはまた別のお話。

で、大学で研究室に配属当時分かっていたことは

イオナンタは11か月水を上げないでも生きていること。
その後3時間のソーキング(浸水処理)で元の生態中の80%まで回復しその後何事もなかったかのように生育すること。
で極度に強い乾燥耐性があることが分かります。

また、通常の植物より、葉っぱに水を取り込むたんぱく質が多かったこと

等が分かっていました。

植物の研究をするにあたって非常に重要な要素として
成長速度と1世代の期間があります。

エアプランツは成長が非常に遅く、1世代も何年あるか分かりませんでした。
そうなると実験結果が出るまでに時間がかかるし、遺伝子を欠損させたり交配させたりして新たな実験試料を作るまでにとんでもない時間がかかる。色々検証するのに気の遠くなる時間がかかりそうなのです。

えー、じゃあどうやって色々調べたらいいんですかねぇ。。。

ってことで、もともとやりたかったカルスを引っ張り出してきて

カルスが確立出来たら細胞そのもののを使って
乾燥耐性を調べることができるではないですか!!

と謎の強気で説得して

もじゃさんの不毛なカルスづくりの旅が始まりました。

結論

できなかったよっ!!

エアプランツの葉の表面には燐毛という細かい毛がびっしり生えており
表面張力で滅菌処理の難易度が通常の植物よりはるかに高くコンタミする確率がめちゃくちゃ高かったです。

なので、葉っぱを使ってカルスを使うのと並行して

成長点を使ったカルス培養も試みていましたが

1株に1個しかないうえに葉っぱが密に詰まっていてたどり着くのが
困難を聞分けました。

 

葉っぱにしろ成長点にしろ実験試料を得るのも一苦労です。

 

で、

当時は結構レアな植物だったので周辺情報も少なかったので
植物ホルモンをどの種類をどのくらいの濃度で使えばいいかさっぱりでした。

しらみつぶしに調べていったもののカルスっぽいものが見えても成長が遅いので
コンタミかそうでないのかの判断に時間がかかったりで
一個もデータが出ないまま月日がえらい経ってしまったのでいったんカルス作成を棚上げしました。

そして、棚から降りてくることはありませんでした(´・ω・`)

エアプランツのカルス化の今

おそらく、結構早い段階で確立されたと思います。
今エアプランツはダイソーで手に入るくらいメジャーなものになりました。

エアプランツが出始めた頃は1株500円~600円くらいしていたのに
今では108円で全国の100均で手に入るようになったということは

大量に生産できる技術が確立されたということです。

非常に喜ばしいことです。

google scholarやpubmedなどの論文検索サイトでその方法が
見つかればラッキーだなーとたまに探しています。

隙あらば今でも実験はしてみたいと思っていますw

そんなわけで、もじゃさんとカルスのお話はこんな感じです。

植物は本当に奥が深くて調べれば調べるほど楽しくなります。
この植物の楽しさをシェア出来たらなーとおもって日ごろ発信をしています!

どうぞよろしくお願いします(何を。

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